陥入爪治療記:その1の1〜第一次大戦(1)

それは突然始まった!

この日は、勤務先の都合で何としても出社しなければならない日であった。もし、事態を重視し出社を取りやめ医院に行き、然るべき治療を受けていれば、こんなことにはならなかったのかも知れない。しかし、ふだん医者には縁がなく、病気らしい病気も怪我らしい怪我もしなかった私には、とてもその先の事態を予測できなかったのである。

右足の親指は、赤みを帯びて痛かった。その前の週の後半には、若干の痒みと腫れがあったが、おおかた虫にでも刺されたのだろうということで、放置モードであった。これがまずかった。これは単に虫に刺されたというのではなく、その後展開する不毛な戦いへのプロローグだったのだ。

痛みは、昼頃に相当強くなった。それでも、足を引きずって食事などへ行っていたのは阿呆である。午後、かなり痛く、同僚の見立てでは「ひょうそう」ではないか、ということ。勤務先備え付けのマキロンで消毒しつつ、様子を見るが、症状はどんどん悪化しているように見受けられる。

うーん、これは医者に行った方がいいのかも?明日にでも行ってこようか?などと悠長なことを言っていられる状況ではなかったようだ。とにかく、医者に行くことにした。といっても、時間は遅くふつうに外来に飛び込めるような時間ではない。よって救急病院に飛び込むことになる。しかし、こともあろうに勤務先近くではなく、自宅近くの医者に行こうと、また不思議なことを考える。帰路はどうするのだ?という配慮が欠けている。まったく以て阿呆と言うしかない。

救急病院に行く!

何とか足を引きずって(もはや靴を履くことは不可能)、ずるずると降車駅から自宅までの途中にある整形外科(救急も受け付けている、以降「S医院」と呼ぶ)にたどり着く。インターフォンで症状を告げると、「入り口から入ってきて下さい」と言われる。へ?入り口?どこに?って脇にあるだろ、という判断力もすでに失われていたようだ。しかも、あとになって判明するのだが、救急で医者に飛び込む際の準備とかそういうものが、まったく頭から抜け落ちていたのである。普段医者にかからないと、そっち方面の経験値が上がらないようだ。

川島なお美似の女性の看護師さんに案内され処置室に通されると、女医さんが登場。いかにもインテリといった感じの女医さんだが、残念ながらそれきり逢うことはなかった。しかし看護師さんにはそれから行くたびに逢うことになった。って、そういうことを言っている場合じゃないね。

「保険証、ありますか?」
「あ、保険証、ないですね。すいません。急だったもので…。」
「では、とりあえず一万円お預かりしますけど、よろしいですか?明日、精算できますから。」
「あ、一万円ですね。仕方ないですね。………(探す)………。すいません、ありません。」

そのとき、私の財布は千円札が2枚ほどという窮状であった。

「では、この書類に住所、名前、電話番号を書いて、拇印を…。印鑑なんてお持ちじゃないですよね…?」

もうすでに捨てられている…orz。

ともかく、応急処置で膿を抜き(メスのようなものを親指の内側に刺されて、抜かれるのだ)、消毒を行い、抗生物質入りの軟膏を塗ってガーゼを当て、包帯で巻かれ、帰される。薬(抗生物質、痛み止め)も渡される。家に着く。まだ暑いさなかであるので、お風呂か、せめてシャワーは欲しい。足をビニール袋でくるみ、濡れないように体を洗う。

ようやく落ち着いた…。しかし、これが戦いの初日であった。

陥入爪治療記

陥入爪治療記:その1の2〜第一次大戦(2)

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